[映画レヴュー]フランソワ・オゾン監督『2重螺旋の恋人(字幕版)』(2017)

ナラトロジーで分析すると、わりと単純化できる作品。
…漠然と混乱を楽しむより、もっと強いクスリあります(笑)

この映画。なんだかよく判らんなーと思いながら、いや、しかし、この映画が単純につまらんとか、よくできていない、といってしまうと、知的でないっぽい…という危惧から(笑)なんとか理屈をこねて褒めているのではないか、と思われるレヴューも散見するのですが。。

たしかによく判らない、といえば判らないですが(笑)よほどの天才でない限り、ものを作る人には、作る人なりのロジック、というものがある。それが判っているので、同じものを作る人は、そこにロジックを探そうとする。製作上のある種のéchafaudage 足場的なもの、といってもいい。

その意味でこの映画、ナラトロジーを使って説明すると、わりと上手く説明できるような気がしました(笑)

ナラトロジーは、もはや50年前の知見であり、今日小説の分析に使える部分はかなり限定的になってはいるのですが、そのナラトロジーが物語製作の方へ、逆に大きな影響を、既に与えてしまっていることも看過できない。特にフランスの国語教育に与えてしまった影響は甚大で(笑)今日ナラトロジーの様々な不合理が指摘されてはいますけれども、既に現代のフランス人の発想には、その不合理も含めて«第二の自然»化しているかもしれない(笑)

そこで、以下、ナラトロジーを勉強したことのある人に向け、ぱぱっと簡単に判るように、アイディアだけ提示しておきますが:

まず、これは映画ですから、ナラトロジーでいえば、逆にfocalisation externeの雛形です(笑)そしてここにバルト的にいえば、視点のトリックに類するものがあるのですが、それがバルトのエコールともいうべきナラトロジーの理論的な理解をやや逆手にとっているところがあるようで、そこが皮肉といえば、やや皮肉、なのですが。。;)

focalisationは、もちろん視点point de viewと同一視できるものではない。つまりそこにはvoixの問題もあるわけです。

ところがこの映画、映画としてごくごく自然にfocalisation externeをとり、結果、そこにあり得る«qui parle ?»という問題が、きれいにマスクされてしまっているわけです(笑)つまり、普通に見ると、同じ一つのfocalisation externeというモードが、同じ一つの視点、という思い込みを与えるように出来ている。

((あ、そうかーーー!;))

ところが、この映画の場合、実は、2つのナラターが存在する、と(あくまでも、ナラトロジーであれば)説明すると、上手くいく。つまり全体の大部分と、冒頭のクリニック、及び終盤のジャクリーヌ・ビセットの再登場から連なる、どちらもごく短いフッテージ。前者をnarrateur intra- hétérodiégétique、後者をnarrateur extra- hétérodiégétiqueに帰せば。。あら不思議(笑)

すーっと不思議さは溶けていく、なーんだ、そういうこと? と思いませんか? もちろんこれは、ナラトロジーによる分析で、方法論的な正確さの問題の有無はもちろん問えるとしても、これが正しい答え、解釈である、ということは出来ません(笑)

ただ、ナラトロジーなんて、なんの役に立つの? 今どき無用の知識でしょ? と思う人もいるかもしれませんので、いやいや、こういうときには結構便利だよ、といういうお話まで。

実際はもはや、(こういうオゾンのような、おそらくナラトロジーの影響下にあってものを作っている人の作品分析の場合はまたやや違い、その点、念頭におく必要はあるのですが…)小説作品をナラトロジーで分析しても、上手く行かないことが多く、僕自身はスポット的に、上手くナラトロジーを活用したい、という立場なので、これ以上立ち入った説明は(もはや時代遅れになっている部分も多いナラトロジーを広めるのも問題があるはず、とも思うので)あまり行いたいとは思わないのですが(またほんとに説明しようとすると、こんな簡単ではない、ということももちろんあります;)

しかし、まぁ、ナラトロジーも基礎知識として判るなら、判っておくに越したことはない。問題点を含めてナラトロジーの知識があることは、やっぱりいいことだ、と思いますので、このあたり、ぜひとも知りたい、という熱意ある人がもしもいっぱいいたら…またkindle本にまとめてみてもいいかな、とかは思います。

…いないでしょうね、多分(笑)

えーっと、「前者をnarrateur intra- hétérodiégétique、後者をnarrateur extra- hétérodiégétiqueに帰」す、というのを、一応、ナラトロジーを知らない人にも判るように、感覚的に説明すると、前者の「物語」はヒロインに向かって語られているものを観客が見るかたち、といえばどうでしょうか?

((あ、なるほどーーー!;))

つまり、前者は、ヒロインに対し与えられたナラティヴ、ということですね;)

しかし、これはあくまでもナラトロジーによる理解で、では後者が観客に向かって語られているかどうか、そして当然前者もヒロインに向かって語られているのかどうか、つまり、要するに、「物語というのは、誰かに向かって常に語りかけている、と考えるエピステモロジックな根拠があるのか?」がいま問われており、ナラトロジーには問題がある、というのはこの核心のところなんですよね。だから、今ナラトロジーを勉強するなら、慎重に、批判的に行わないといけない、ということなわけです。

…でも、便利でしょ? やっぱり使いたくなっちゃいます(笑)

((ナラトロジーは使うと便利な時がある!;))

横文字の用語が使ってあるからこの説明はよく判らない…と思う人のために、日本語訳に従ってまとめておくと:

“この映画は、物語論を使って説明すれば、わりと単純な構成を持っている。味噌は、物語論(ナラトロジー)の前提に従い、常に語りの審級が存在すると考えると、映画として当然外的焦点化をとるこの作品が、実は2つの語りの審級を持っている、と気づくかどうかで、一つは作品の大半を占める物語世界内異質物語的語り、他方は作品冒頭及び最終部分に前景化する物語世界外異質物語的語りで、要するにこの作品は大部分において、女主人公(ヒロイン)に与えられる物語言説(ナラティヴ)を鑑賞者が眺める構造になっている、と理解すればよいだろう。

…はい。アルファベット使わないと、だいぶ判りやすかったかな??(笑)
(これらの用語の中には僕にはしっくりこないものがあり、通常は極力使用しません:物語論、審級、外的焦点化、異質物語的、など)

ナラトロジーやナレーション分析で、ここから具体的には何がデヴェロップできるのか、ということについても、ファースト・ステップだけささっと示唆しておくと、

まず、この作品を見て、「事実と虚構が交錯する」と理解するのは、作品分析するにはやや明晰性の不足した感覚で、つまり、作品は、全て、フィクション、虚構だから(笑)
…当たり前ですね。でもその当たり前のことを、めんどくさがらず、いちいちちゃんと押さえていかないと、最終的には分析は大混乱を来たします。

その上で最初に論じることができるのは、
本当にこの作品のナラターは2つしか存在しないか、
さらにナラターが切り替わるのはこの2回しかないか。

それぞれ、最大限にとる努力と、それを最小限に切り詰める努力ができると思いますが、客観的な根拠がない限り、最終的には最小限をとるのが分析の基本。

何だ、それじゃあ面白くなくなるじゃないか、僕はこの混乱を楽しみたいんだよ、そんな幽霊の正体見たり、枯尾花、みたいな話のどこが面白いんだよ?
…と思うかもしれませんね(笑)

しかし分析の基本は、見かけ上の混乱を解消し、本質を取り出す、ということで、いわば、作品の混乱がどういうふうに生まれるかをクリアに理解すること、です。

分析の結果、より明晰に作品を理解した上で、それでもそこに残る混乱や、あるいは作品が仕掛けてくる見かけ上の混乱を楽しむ、というのは、その混乱がどこでどう生まれているのかはっきりと判らず、ぼやっとした理解で楽しむより、はるかに深く、強烈な、作品の楽しみ方を可能にします。

…うーん、なんか、もっと強いクスリあるよ、使ってみる? みたいな話になってきましたが(笑)今回のところは、これで。。;)

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L’amant double

2重螺旋の恋人(字幕版)』(2017)

フランソワ・オゾン監督

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Yûichi Hiranaka

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