コロナ、やまゆり、神戸の地震。

La vie continue… それでも、人生は続いていく。

Yûichi Hiranaka
8 min readApr 6, 2020
https://youtu.be/k3_crTZ0NHg

マガジンハウス「クロワッサン」誌にユニヴァーサル・ベーシック・インカム(UBI)の本を紹介する記事を書きましたが、(https://yuichihiranaka.com/?p=7311)今回、covid-19、新型コロナ禍に際して日本政府から一時金の支給の話が出ているようですね。

UBIは、生活を支える最低限の所得が定期的、継続的に、全員一律、無条件に与えられる、という仕組みです。特に全員一律、無条件でなければ効果が得られにくくなる、という理由は記事にも簡単に書いたし、詳しくは紹介した書籍を読んでいただきたいのですが、

今回の日本の一時金の話のいちばんの問題もここにあり、(継続性がないことは、一時金、という時点で問題外であるとして)

つまり、所得の減った世帯の生活を支える、としている点です。

なぜなら、所得の減った世帯の生活が苦しいなら、そもそも所得のない世帯、さらには個人にとって、それはもう、まさに死が目前に迫っている状態、のはずだからです。

(本当は、世帯ごと、というのも問題で、例えば今回のコロナ禍に対して欧米で実行されている自宅での自己隔離は、注意して見ていると、家庭内暴力の被害にあっている人には地獄に等しい、ということが判ります。本当は、各個人に支給すべきなのですが、その話も、今は措きます)

所得の減った世帯を支える、というのでは、そもそも所得のない、つまり経済活動に貢献できていない世帯は、助ける価値がより低い、ひいては、積極的にではないとしても、そういう人たちは結果的に死んでも比較においては仕方がない、という誤ったメッセージを言外に伝えかねません。

経済活動に貢献できていない人は、社会の中で、より価値が低い、つまり生きる価値がより低い、という考え方は、実は、結局現代の日本人が、誰もやまゆり園の虐殺事件の非道を憎みながら、正面から犯人を論破できない、という事実に繋がっています。

あの、犯人の心の闇が、とか、謎のままの動機、などといういい加減なクリシェにうんざりさせられるのは、それは、判らないのではなくて、判ろうとしないからなだけ、と思うからです。

あの犯人がいっているのは、要するに、だって、今の世の中は、こうできているじゃないか。弱いものが負け、強い者が勝つ。負けるのは弱いもののせいで、当然の報いでしかない。みんなそれを許容してるじゃないか…という、ほとんど反抗期の子ども並みのこと、といってもいい。

あの犯人を論破するには、いや、いくらお前がそう強く思っても、それは思いの強さの問題でなく、正しいか間違っているか、という基準が厳然と、客観的に存在し、そしてその基準に照らし、お前の考えは本質的に間違っている、

すなわち、弱い人はより価値が低い、という考え方は、普遍的に、完全に間違っている。人間性を、人類の尊厳を否定する、不勉強で、不十分で、幼稚な考えなのだ、と論破してやる必要がある。

そして、それをあの犯人の顔を正視していえるようになるためには、この世の中から、弱い人は負けてもいい、それが生き物の掟であって、自己責任である、という考え自体を、普遍的に排除する、根本的に否定することから始めなくてはならない。

そこを避けて、問題を犯人の異常性や愚かさに帰し、単に犯人個人、犯人の人格を否定するだけでは、それこそ被害者の死は、もっと深いところで無駄になってしまいます。

しかし、それにしても、今の若い人たちもそうでしょうが、若い時は、世の中なんてどうせ変わらない、と思っていました。

戦争のない、平和な時代を生きていたつもりが、とんでもない。大災害はある、テロはある、パンデミックはある。まさに、波乱万丈です(笑)
世の中は、変わらないどころか、恐ろしいくらいに変わって行きます。

それでも人は、どんなことからも、学ぶことができる。

今回のコロナ禍もきっとそうでしょう。

95年の神戸の地震の時に僕が学んだことの一つは、

何か嫌なことがあった時、そこでいちばん傷つくのは、そこでいちばん弱い人だ、ということです。

何か嫌なことがあった時、人は、弱い順に傷ついていく。

だから、何か嫌なことがあった時、そこでまず考えなければいけないのは、誰がそこでいちばん弱い人か、ということです。そして、その人の立場で、世界を見てみる、ということです。

むずかしいです。できません。でも、これは、本当のことです。

いちばん弱い人は、自分の好きな人とは限りません。いつも、嫌なことばかりしてくる人かもしれません。バカで、ことばの通じない人かもしれません。外国人かもしれません。意地悪で、狭量で、善良とはいえない人、汚くて、臭い人、恐怖を与える人かもしれません(…これはパリで学んだことですが)。

自分だって傷ついている時に、そういう人のことを考えることは、ほぼ不可能に近い。けれど、そのいちばん弱い人が救われる状況が生まれれば、より弱くない自分は、もっと大きく救われる…。

それが判るのが、人間の理性であり、そんな状況でもより弱い人のことを考えようとする、考えられる、というのが、人間の力、想像力です。そしてこの二つを持つことは人間性、人間らしさの証であって、人間のもっとも卓越した特徴です。

それが今の世の中は、弱いものを見れば、ここぞとばかりに攻撃する。弱いものは、弱いのが悪いのだ、負けるのは自分の責任だ、という考えが行き渡っている。

そんなのは畜生の掟であって、非人間的である、と考えるのが、多くの動物とは異なる、人間の本質的な直感であって、そういう非人間性を、例えば日本文学は中世の昔から「鳥獣の相争うが如し」と否定してきた。それが日本の伝統であり、文化でもあります。

スポーツは強い者が勝ちますが、それはそういう動物世界の自然を、日常の現実とは異なる遊びごとの枠に収めゲーム化したもので、人間の文化の中にフィクション化、馴化して取り込んでいるものだからこそ、スポーツマンシップとか、清々しい敗者とか、さまざまな«物語–ナラティヴ»によって装われているわけです。もし«文化»がなければ、強い者が勝つことに、美しさは何もない、文字通り、美は見る者の目の中にある(笑)見るものに«文化»があって、初めて美が認識されるわけです。スポーツにおいて強い者勝ちが楽しまれるのは、要は、そこに«スポーツ»という枠がはめられているから、です。

強い者が勝つのが正義とか当然とか自然とか、簡単にいう人もいるけれど、正義とか当然とか自然、という判断自体が、そもそも人間がいるから生まれるのであって、その意味で、動物の自然を(自然の対立概念でもある)人間にとっても「自然」である、と考えることは、少なくとも、議論の余地のないこと、とは到底いえません(笑)人間にとって自然とは何か…などと考えている時点で、すでに人間には「自然」などというものは存在しない、と説明すればいいでしょうか?(笑)

今の世の中で、弱いものを見れば、攻撃する。弱い者が負けるのは当たり前、と考える。

それは、結局、自分が弱い者でもあるから、自分もより強いものに攻撃され、負けている、日々、負け続けているから、でしょう。

そしてその負けを、仕方がない、自分のせいだ、と受け入れ、飲みこみ続けているからでしょう。だからこそ、自分より弱いものを見ると、その分ここぞとばかりに攻撃してしまう…。

しかし、攻撃された分、自分より弱いものを攻撃したところで、終わることのない負の連鎖。本当に自分が救われることはありません。もし自分が本当に救われたいなら、問題は、本質的に解決していかなければならない。

自分が本当に救われたいなら、自分だけ、自分のところから救われようとしても、そう都合よくはいきません(笑);自分より弱いものから救われていけば、より弱くない自分はすでに、少しずつ、救われている状態になる…。

そして、そのためには、まず、弱い者が負けるのは当然である、という非人間的な考えを、普遍的に否定する必要がある。

それがやまゆり園事件の犯人を論破する第一歩であり、

何か嫌なことがあった時、そこでいちばん傷ついている人が誰かを考える、自分がこんなに大変なら、あの人は、もっと大変だろう…と考える。それが人間らしい、人間ならではのものの考え方、感じ方であって、

そこでいちばん弱い人を助けることは、他でもない、自分自身を、本質的なやり方で、助けることになるのです。

いちばん弱い人の立場になって世界を見た時、いわばそのいちばん弱い人の目を借りることで、何がいちばん大事なことなのか、いちばん本質的なこと、本当のこと、真実は、私たちの目に少しずつ見えてくるのだと思います。

La vie continue… それでも、人生は続いていく。

[追記]

このポストのおよそ10日後、政府は方針を転換し、今回のコロナ対策の一時金を、収入の減った世帯のみでなく、全世帯へ一律給付とした。振り返ったときこれが歴史的な*一歩前進*だったといえるようになるか、ならないか。有権者がこれからの選挙を通じ決することができればいいと思う。

コロナ禍の先に見える、微かな光。よりよい世界が訪れる、小さな希望を通奏低音、ベースラインとしてキープしていきたい。

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